1.空き家の問題

空き家問題を一般的な傾向に整理すると概ね下記のようになります。

1)       人口の流出に伴う経済活動の不活性化

2)       不衛生、防犯・防災上の不安の増大等による周辺環境への悪影響

3)       上記により福祉等を含め、行政サービス遂行への悪影響

4)       上記が悪循環をよび、問題を増大させ深刻化が進む

しかし、実際には地域によりその状況やそもそもの原因等、様相は大きく異なります。例えば、過疎化が進む地方と首都圏などの都市部では問題が進行する原因や過程が大きく異なります。異なる状況の下で「空き家問題」という同様の問題が起きています。

したがって「空き家問題」を解決に導こうとするためには、それぞれの原因や過程などの異なる条件を十分に勘案し、それぞれに沿った施策を策定しなければなりません。そのことから、実は、人口減少・過疎の問題から「空き家問題」が早くから顕在化した地方の方が、東京(東京においても人口流出と高齢化が深刻に進む地域もありますが)を含めた首都圏よりも、「空き家問題」への対応は進んでいるという状況です。とは言いましても、解決に向けた「特効薬」が見つかったわけではなく、それぞれの地域がいろいろな努力を続けながら解決策を探っているという状況です。

2.首都圏の取り組み状況

地方の取り組みと比べ都市部、特に東京を含めた首都圏は「空き家問題」に対しては後進地域で、まだほとんど暗中模索といった状況と言えます。「問題」がよく分からないまま、それぞれが思いつくままに対応をしようとしている、といった状況です。(これは、この2年間を通したNPO活動として、地方公共団体との接触を通して得た確信としての印象です。)最近は大手企業も「空き家問題」をビジネスフィールドと捉え参画を進めていますが、彼らも同様です。大手企業は得意な分野、ビジネスとして効率的に成り立つ分野に特化して「空き家問題」に対応しようとしています。例えば「売却による問題解決」などですが、それは条件に見合う立地の所有者にのみ有効な方法で、人口減少と高齢化が密接に関与する「空き家問題」の解決につながるものではなく、売却が困難な土地を所有する多くの空き家の所有者を対象から除外しています。

3.首都圏の空き家問題は潜伏期間のある病気に似ています

「空き家」の問題の発生のしかたは、首都圏と地方では全く異なります。

こちらに、空き家の統計値を発表している総務省統計局の「住宅・土地統計調査」における「用語の解説」の中の空き家に関する部分を抜粋してあります。まず目を通してください。

ここでは「空き家」を「別荘」「たまに使用される住宅」「賃貸用の住宅」「売却用の住宅」「長期に渡り不在の住宅等」「取壊し予定の住宅等」などと定義しています。首都圏の住宅の場合、売却用や取壊し予定の住宅等を除けば、どの程度の所有者が自分の住宅を空き家だと思っているのかといえば、ほとんどの方が空き家だとは思っていません。売却や取り壊しを予定している所有者はご自分の意思で空き家にしています。そして「賃貸用」や「売却用」の住宅は不動産市場における商品として不動産業者からの情報として発信されて流通します。つまり、一般的に首都圏の「空き家」は商品価値が高いので業者が介在して流通します。一方、「空き家バンク」に登録されるような地方の住宅は、「空き家」になると貸すことも売ることも困難な状況になります。不動産市場における「商品」になり難い物件に業者は積極的には介在してきません。そこで「空き家バンク」に登録して地域の魅力などとともに情報として発信されます。

このように首都圏と地方では「空き家」の扱われ方が違います。住む人がいない住宅は、地方では「空き家」として顕在化しやすい傾向にありますが、首都圏ではその多くが不動産の市場で流通されます。実は、そのため首都圏では深刻な状況になってから「空き家」として表面化する傾向にあります。

賃貸物件として利用を続けるためには、修繕工事やリフォーム工事を含め、適切な管理を継続しなければなりません。しかし、自宅を賃貸物件として利用しようとする場合、管理費が継続して必要だと理解することはなかなか難しいものです。そのため、いずれ賃貸物件という商品としての魅力が薄れて、流通が滞ることになり、老朽化が進みます。そしてますます魅力が薄れていきます。これは賃貸マンションやアパートの所有者にも起こることです。入居率が停滞すると十分な収入が得られなくなります。その結果、管理に必要な費用の支出を怠ってしまうことがよくあります。その結果ますます商品価値が下がり入居率が落ち、老朽化が進むという悪循環に陥ります。

首都圏で「空き家」として表面化する物件の多くは、流通できないほど老朽化が相当進んだ状態の物件です。そこで、売却を検討した場合、道路に敷地がどのように接しているかなど法律上の問題で再建築ができない場合は売却も困難になります。実は首都圏ではこのような問題で売却できないまま老朽化が進んでいる「空き家」も相当数あります。そのため、首都圏では「空き家」問題とは老朽化した危険な状態で放置されている住宅の問題、と認識されている傾向にあるようです。

首都圏の空き家問題は潜伏期間のある病気のように、表面化した時には既に相当の老朽化が進んでいる傾向にあります。

4.空家等対策特別措置法の制定と地方公共団体の条例について

多くの地方公共団体が空き家対策を目的とした条例を制定し、また制定に向けた作業を進めています。

東京においても、新宿区、墨田区、大田区、足立区、台東区、豊島区、八王子市、小平市等が「空き家の適正管理」に関する条例を制定し、渋谷区、中野区、杉並区等は、空き家の対策に利用できる条例を制定しています。
空家等対策特別措置法が(2015年2月26日一部施行、5月26日完全施行)制定され、今後この法律に沿った内容の条例の制定が、各地方公共団体において進められることでしょう。

「空き家の適正管理」に関する条例は、建物を「空き家」の状態で放置することなく継続的に管理をするよう求めていますが、管理には費用がかかります。使用していない建物の管理費を支出し続けることは、一般的には困難です。そこで、建物の再利用(有効活用)により賃料収入を得る検討をすることは、管理費の支出を継続する上で有効な手段となります。しかし老朽化が進んだ状態の物件の場合、再利用・再活用を提案するにも、修繕費用・改修費用が相当余計に必要で、投資効率が悪く実現が困難な場合が多々あります。

更に、「空き家の適正管理」に関する条例は、適正管理を実施せずに放置されたままの老朽化した危険な建物の解体除却を求めています。空家等対策特別措置法においてこのような建物は「特定空家等」として定義されました。首都圏では「空き家」として表面化した時にはすでに老朽化が相当進だ「特定空家等」となってしまっている、ということを私達はNPO活動を通して経験してきました。結果として売却可能な物件は解体して売却を勧めるということになります。

NPOまち・そら・ネットワークの活動を通して申し上げたいことは、首都圏における「空き家等の適正管理に関する条例」の対象となる物件の多くは、条例の最終段階である解体除却を求められる状況にあります。

5.空き家予防バンク

NPOまち・そら・ネットワークは首都圏を活動エリアとして、空き家の再活用により地域経済の再活性化を目的として活動を続けてきました。しかし、相談を受けた空き家は全て老朽化が進み過ぎていて、残念ながらほとんどの物件の再活用を断念しました。再活用した物件も5年から10年後をめどに解体することを前提としています。

(老朽化した空き家の定期借家例)

この再活用では地域経済の再活性化を呼ぶことはできません。

まち・そら・ネットワークは空き家対策として以下の2つの活動を進めています。

1)空き家を有効に再利用する活動  … 対応活動

2)空き家にならないようにする活動 … 予防活動

まち・そら・ネットワークは首都圏において、空き家の再活用により地域社会の再活性化に寄与することを目的として活動を続けてきました。そこで痛感したことは、「対応活動」の難しさです。首都圏では、営利目的の商品としては市場に出せなくなった状態になってやっと「空き家」として顕在化する実情から、対応活動が空き家問題の解決につながるとは考えられません。

そこで、今後は「予防活動」を空き家対策の主要な活動としました。強いて言えば、首都圏における空き家問題を抜本的に解決する一つの道筋は「予防活動」にあると考えます。そのためには「空き家」になる可能性のある物件の把握と、その所有者や関係者からの相談の対応と、これからも「空き家」にしないための啓発と状況に沿った適切な予防計画と実施活動を進めていきます。

どうぞ「空き家予防バンク」をご活用ください。将来に不安のある方、例えばご高齢者だけの世帯で使用されない部屋がいくつかある住宅や、賃貸しているが借り手をつけるために賃料を下げる一方の場合、何らかの目的で使用はしているが管理が行き届かず老朽化が進行している住宅等、そのような物件の所有者の方々及び関係者の方々のご不安やお悩みに、まち・そら・ネットワークはお応えできます。

6.予防活動の実績と有効性

今までは主に賃貸物件に対する活動として「予防活動」を行ってきました。賃貸マンションやアパートなどは完全に空き家になる前に、スラム化という現象に陥ります。

たとえば空き室が多くなったアパートは入居率を改善するために家賃を下げ、それにより収入が減少して管理運営に支障をきたす、ということが起きます。その結果、老朽化が進み、それが更なる空室の増加を招くという悪循環が始まります。

このような状態でご相談を受けた時は地域のニーズを調査し、地域に求められる賃貸物件へのリノベーションをご提案します。収益物件の場合は安定的な家賃収入を目指すためにリノベーション工事をするという目的があるため、オーナーさんが工事を決断する機会が増えます。これは、賃貸物件の場合は完全に空き家になってしまう前に手当てをするという、予防活動がしやすいということです。そして予防活動は周辺地域へよい影響を与えてくれます。





特定非営利活動法人まち・そら・ネットワーク